
『Nidec Journal Transformation』は、公式リリースだけでは伝えきれない「背景」や「プロセス」を掘り下げ、変革の実像を可視化するシリーズ企画。今回は、ニデック再生委員会のリーダーとして改善計画書策定の中核を担った藤野 健太郎執行役員と栗林 綾執行役員に、提出までの道のりと、その先に見えてきた展望について語ってもらった。
第三者委員会調査と並行して進めた改善計画策定
藤野:再生委員会で改善計画書を作成する際に前例と違ったのは、第三者委員会の調査と並行したことです。これまでの事例では、まず第三者委員会による原因特定などの報告があり、その調査結果・提言に基づいて、会社としての改善施策の立案や実行をしていくのが一般的。しかし、今回の状況は異なりました。第三者委員会は独立した組織なので情報は完全に遮断されていて、調査内容は当社に共有されません。そのため、社員にヒアリングをしても、すぐに自由な意見が出てくる状況ではありませんでした。社員からすれば、再生委員会は何をやる組織なのだろう?と、疑問や不信感も生まれていたはずです。
栗林:第三者委員会が調査中の事案には踏み込めないので、これまでの会社経験やステアリングコミッティの役員とも話しながら、根本原因だと思われる仮説を立てていきました。
藤野:東京証券取引所(以下、東証)から特別注意銘柄に指定されたあと、3カ月以内に改善計画書を提出しなければなりませんでした。しかし、第三者委員会の調査の終了タイミングが分かっていなかったので、その結果を待ってから計画策定することはできません。原因が特定されていないなかでそれを想定して対策を考える必要がありました。
栗林:役職員や社員へのヒアリングでは、第三者委員会の調査の妨げにならないよう、「これまでの運営の中で課題だと思っていたこと」を聞いて回りました。再生委員会にはグループ会社からもメンバーが参画していたのですが、はじめは本社と各グループ会社の間に壁があり、皆さん様子見の状況だったと思います。数日かけて本音で語り合えるようになりましたが、皆さん「問題をなんとかしたい」という思いがあっても「どこまで言っていいのか」が分からなかったのだと思います。
栗林:もう一つの課題は、我々だけではガバナンス領域の知見が薄かったことです。藤野は営業、私は品質保証など別領域の出身で、当時は取締役会の構造や監査の仕組みへの理解が十分ではなく、問題の所在を捉えにくかった。そのため、外部の知見も入れて議論を進め、どこが問題だったのか、どのような対策があるのかを徹底的に議論しました。
藤野:第三者委員会の調査対象となる可能性がある人は改善計画を策定する実務メンバーとして参画してもらえないという制約があり、今回の事案が発生している現場を深く知る人がいないなかで、原因の仮定および改善施策の策定をしていく必要がありました。
仮説をもとに策定した改善計画書を2026年1月28日に東証へ提出しましたが、それで終わりではありません。施策はグループ全体に展開を行い、それを整備・運用して、改善実績を示す必要があります。
仮説の核――なぜプレッシャーを断ち切れなかったのか。
藤野:改善計画書を策定するにあたって、一般的な課題・分析だけではなく、当社特有の問題があったのではないか、と指摘されていました。そのため、再生委員会では、それぞれの経験をもとに話し合い、問題を書き起こすところから仮説の構築を始めました。
栗林:その中で見えてきた一つの答えが、プレッシャーの構造でした。業績追求の強烈なプレッシャーを受けた幹部が、組織や人による違いはあるものの、その方針をストレートに現場へ伝えていく、という構造がありました。
本来は、トップの意図を咀嚼し、自分たちの組織に合った形で現場に落とし込むべきでした。しかし、それができていなかった。結果として現場の負荷が限界を超え、不正が起きやすい環境につながっていたと考えています。
藤野:その背景には、創業者の「社員も経営者と同じ温度感でなければならない」という考え方がありました。皆がそうでなければ会社として成長できないとされました。トップの方針を自分の立場なりに咀嚼すること自体が認められていなかったのだと思います。
藤野:「経営者意識を持て」という考え方も強くありました。会社の支出は自分のお金のように考えるという文化です。それ自体には正しい面もあります。ただ、創業者から直接話を聞いた世代はその真意を理解できますが、それが間接的に伝わったり、または時代に合わせて変えられなかったりしたことで、組織によってはメッセージとそれに込められた意味のギャップが大きくなっていったのだと思います。
海外の状況は一様ではありません。日本から直接指示を受ける組織はプレッシャーを受けやすい一方で、現地でマネジメントしている組織では、プレッシャーを理解しつつ適切に対応していたところもありました。今回の全社を挙げた抜本的な改革を「企業として当たり前のこと」と受け止めている人も多く、地域や組織によって状況は異なっていると考えています。
これまでの構造を断ち切り、真のグローバル企業へ
栗林:今回の問題で多くのステークホルダーの方にご心配とご迷惑をおかけしてしまいました。この反省を踏まえて、二度とこのようなことを起こさないという想いで再生に向けて取り組んでいます。会計や品質、そして根本にある文化まで、変えなければならない。この問題を、みんなで変わるきっかけにしていきたい。真摯に向き合い、これまでできなかった改善を進めていかなければ、真のグローバル企業にはなれないのです。
まずは「現代のスタンダードに合致した企業へ進化する」ために、社員の声を聞き、他社の取り組みも参考にしながら、これまで過剰だったコスト削減や、本質を見失った運用を見直しています。
これまでの当社グループは、トップを主軸とした、中小企業の集合体のような組織でした。しかし、それではトップがいなくなれば組織として成り立たなくなってしまう。そこで現在は、事業を5つのピラー(柱)に分け、それぞれが目標を立て、戦略を練る形へ移行しています。小さな会社単位での取り組みから、ピラーという大きな単位で動くようになることで、スケールの強みを発揮できるようになります。
これからは、自分たちで設定した目標の実現性を見極めていく必要があります。組織としてだけでなく、社員一人ひとりが自ら考え、動く会社へ変わろうとしています。これまでとは違う形で社員の負荷は増えると思いますが、その分、福利厚生や職場環境整備といったケアも同時に進めていく。「企業が本来あるべき姿」に変えていくということです。
藤野:市場から求められているのは今後の健全な事業成長。内部から求められるのは組織改善。これらを同時に進めなければいけません。それぞれのピラーの中で戦略を示し、5つが集まってニデックになる。会社としてのパーパス・バリューの策定に加えて、同時に会社の企業価値を高めるための事業・組織を変革していく必要があります。
社会やお客様はもちろん、本社、グループ会社、協力会社など、すべての組織や人とどう向き合うか。自分たちさえ良ければいい、ではない。ここからがスタートです。これが「Re-Definition宣言」だと思います。
栗林:この宣言がパーパスにもつながっていきます。自分たちが何のために働いていて、何のためにニデックにいるのかを考えたとき、どう社会に貢献できるのかをやりがいに変えていく。そうすることで、家族にも誇れる仕事になっていくはずです。
藤野:今回、再生委員会の活動を通して、本社とグループ会社・事業本部との関係性が、これまでどのようなものであったかを改めて認識しました。グループ間で自由に意見を交わし共に作っていくニデックへの変革を、今回のさまざまな施策、そこからつながるニデック経営改革5カ年プランを通して進めていきます。
その中で打ち出された、新たな「5つのピラー」。ニデックでチャレンジをしようと集まったグローバルな仲間がその事業領域で誇りを持った仕事を行い、その事業領域がどのように社会に対して貢献しているか、自分自身やニデックの社会の中での存在意義をREDEFINE(再定義)することで、社員にとって働きがいのある、よりよい会社にしていきたいと思います。
栗林:現在推進中のニデック経営改革5カ年プランの完遂に向け、着実に取り組んでまいります。この変革を通じて、これまで本社・グループ・事業本部間に存在した壁を取り払い、誰もが自由に意見を交わし共創できる組織文化を根付かせます。また、グローバルな仲間が誇りを持ち、自ら考え自主的に成長できる環境こそが、真の「働きがい」を生むと考えます。私たちはこの変革の旗振り役として、社員一人ひとりの熱量が最大限に活かされる、誇り高き新生ニデックを皆様と共に作り上げていきます。
再生に向けた変革は、まだ始まったばかりです。この「Nidec Journal Transformation」は、ニデックの変化の現在地と、これからの歩みを伝える場です。試行錯誤を重ねながら進む道のりを、これからも継続して発信していきます。

